実際に転職をおこなう・おこなわないに関わらず、ドイツ人のうち転職に意欲的である率は全体の37%にのぼるというデータが示されています(参照:HRJournal)。特に30~39歳の年齢に限るとその率は48%と非常に高く、ドイツ人の転職への熱意が伺えることでしょう。

この傾向はドイツに住んでいる日本人も同様で、転職とそれに伴うキャリアアップは一般的におこなわれていますが、転職後に必ずしも自身の労働環境が良くなるとは限りません。今回の記事では、ドイツ在住日本人の転職活動及び現職の退職と、それに伴うリスクについて解説をおこないたいと思います。

転職・退職のデメリットを再確認する

一般的に、「転職(および現職の退職)」は不可逆的な行為です。つまり、一度会社を辞めてしまうと、よほどの事情が無い限り「出戻り」をすることはできません。勿論、目の前にあるチャンスを無駄にすることは禁物ですが、かといって考え無しに会社を辞めてしまうと、後々取り返しのつかない事態に陥ることも考えられるのです。

ビザの紐づけが無くなる

日本人の場合、ドイツでの転職に伴うもっともクリティカルな問題がビザの紐づけです。既にドイツで60ヶ月以上の労働・納税をおこなうなど無期限就労ビザを取得していたり、24ヶ月以上の労働でもって特定の企業名に紐づかない有期就労ビザを獲得している場合は問題ありませんが、そうでない場合の労働ビザは労働契約書に紐づいてしまうため、現行の雇用主が変わってしまうと自身のビザも失効することとなります。

日本人のドイツ就労ビザ 有期就労ビザ(企業名に紐づく) 有期就労ビザ(企業名に紐づかない) 無期限就労ビザ
ビザの期間 労働契約書の期間

※パスポートの期限を上限

労働契約書の期間

※パスポートの期限を上限

無期限

※パスポートの期限を上限

一般発行条件 ドイツにおいて雇用主がいる ドイツで24ヶ月就労(個人年金を払う) ドイツで60ヶ月就労(個人年金を払う)

(※緩和規定有)

企業への紐づき 特定の企業名に紐づく 特定の企業名に紐づかない 特定の企業名に紐づかない
転職の際の立ち位置 新たに申請し直す必要がある 新たに申請し直す必要が無い 新たに申請し直す必要が無い
申請のための書類 新しい労働契約書 不要 不要

(※本テーブルの情報はあくまで一般見解です。細かい規定や例外条件など、最終的には応募者管轄の外人局指示に委ねられることがあるのでご注意ください)

そのため、日本人でありかつまだドイツでの滞在歴が浅い場合、そもそも自身の就労ビザが特定の企業名に紐づいているものであるかどうかの確認が必要です。もしそうである場合、早々に企業を退職して転職先が見つからないとなると、最悪の場合ビザ失効となりドイツを去ることになりかねません。

引っ越しが難しくなる

移民人口の増加も手伝って、近年ドイツにおける家探しは需要多寡の状況が続いています。すなわち、引っ越しやドイツ移住に伴って新天地で良い条件で家を探すことが非常に難しいという訳です。

ドイツの家主は、一般的に社会的信用のある人間の入居を好みます。逆にいうと、家賃の滞納の恐れがある人間、定職に就かずにすぐに退居してしまう可能性がある人間などは好まれません。

さて、仮に会社を退社してしまうと、無職になるわけですので、次の家探しは非常な困難がつきまとうこととなります。無職状態ではなく、すでに新しい会社での内定が決まっている場合でも同様で、「試用期間」が終わるまでは家主からの信頼は乏しい傾向にあり、簡単には家が決まらない覚悟をしておいたほうが良いかも知れません。

転職は容易ではない場合もある

ドイツは日本に比べ転職が受け入れられやすい文化にはありますが、あくまでそれはドイツ人に限った事情です。母語をドイツ語としない、場合によってはビザの縛りがある日本人の場合では状況が異なり、周りのドイツ人のように簡単には仕事が見つからない可能性は大きいわけです。

上述のように、ビザの要件次第では無職期間が長引いてしまうとその間にドイツでの滞在許可証が失効してしまう恐れもありますし、仮にビザがあったとしても無職期間が長引くと次の仕事を探すことが難しくなることもあります。

そのため、一般的には退職してから仕事を探すのではなく、仕事を探し、すでに内定を貰ったタイミングで現行の会社を辞めるやり方がリスクが低いと言えるでしょう。

退職のための諸手続き

こうした諸々の転職・退職に伴うリスクを理解し、それでもなお実際に退職の決断をする場合、やはり注意点が多く存在します。特に、事務的な手続きはタイミングが重要となるため、退職前のタイミングでしっかりと抑えておく必要はあります。

Kündigungsfristの確認

ドイツにはKündigungsfrist(解雇・退職通知猶予期間)というルールが設けられており、労働契約書に特段の取り決めが無い場合、一般的には今まで働いた期間に基づいてこの解雇・退職までの猶予期間が設けられています。

この解雇・退職通知猶予期間は、今まで勤めた期間が長ければ長いほど多くとられることとなり、例えば5年勤めた場合であれば2ヶ月、10年勤めていたら最低4ヶ月前には退職の通知をおこなわなくてはいけません。

このKündigungsfristの存在は、働きながら転職活動を行いたい場合大きなネックとなります。すなわち、新しい内定先が見つかっても、会社への退職通知をおこなってからXヶ月は退職できないという縛りが発生するわけで、今月から、来月からすぐに新しい会社で働く、ということができないことが多々あります。

もっとも、あくまで解雇・退職通知猶予期間は雇用主及び雇用者を守るために便宜上定められたルールであり、実際にはお互いの合意の下で、この猶予期間を短縮することは可能です。

ドイツ労働法(§ 622 Kündigungsfristen bei Arbeitsverhältnissen)を元に著者作成

上司・人事担当者との口頭での話し合い

ドイツでの退職通知は、全て書面でおこなわれる必要があります。もっとも、退職をおこなうドイツ人の中でもいきなり「退職通知」を突きつける割合は10%程度で、実際にはその前に口頭ベースで上職との話し合いの機会を設けます。

場合によっては、話し合いの結果雇用主側で改善できる点が見つかり、退職に至らないケースもあるため、通過儀礼的な要素はあるものの、やはり後味よく退職プロセスを進めるためにはまず一旦話し合いの場を設けるようにしましょう。

書面による解雇合意書の締結(Aufhebungsvertrag)

退職・解雇の合意は口頭約束ではなく書面で残されなくてはいけないというドイツの労働法のルールに則り、基本的には退職に際しては、この解雇合意書のような形で合意されることが推奨されます。具体的には、退職金や退職の日時、備品の返却のルールなどが細かく指定されており、解雇合意書へのサインは将来的なトラブルを防ぐことにも繋がります。

有給の消化

最終的に退職が決定的となったら、(即時解雇などよほどの例外的な措置を除いて)、退職までに有給を使い切る必要があります。仮に使い切れないと、書類上多くの問題が発生することになるため、雇用主側も雇用者側もこの有給消化に関しては日本以上にシビアである点を理解しておきましょう。

一般的には、この有給消化を用いて転職に伴う引っ越しの準備などに充てることが多いと言えます。

あとは、最終的な備品の返却や引き継ぎなどをもって退職のための手続きは完了します。上述の通り、ドイツならではのプロセス、ルールなどが存在しているため、日本以上に退職にあたっては注意を払っておこなうことをお勧めいたします。