ドイツで就活をおこなった人の話を聞くとよく「何社受けても面接にすら呼ばれない」「ワーホリ中に1年就活したがまったく内定がもらえず日本に帰国した」といったようなネガティブな声をきくことがあります。

このように、日本人がドイツの就職活動に苦戦するのには、本人の資質やスキルといった問題よりも、ドイツ人人事と日本人応募者の採用に対する考え方や求めるものが根本的に異なっており、需要と供給のミスマッチをおこしているといった原因が多く挙げられます。実際に、この問題さえ解消することができれば、日本人であってもドイツで多く内定を獲得している応募者は少なくありません。

ドイツでの就職活動を成功させるために、まずはドイツの採用文化を理解しておきましょう。今回の記事では、ドイツ人人事の考え方や求める資質、日本人応募者がそれを満たすために重要なこと、といった内容を詳しく解説していきます。

採用・求人経路

そもそもドイツで就職活動をおこなう応募者は、まずはじめにどのようにして会社にエントリーするのでしょうか?

まずは、ドイツ社会一般の数字に目を通してみましょう。ドイツでの応募者にとって最も人気の高い応募経路は「就職ポータル」で全体の66.4%を占め、次いで「企業採用ページ」(37.9%)、「採用型SNS(LinkedInやXing)」(36.5%)と続きます(複数回答可)。日本でも大手のオンラインでの就職プラットフォームを通じた就職・絵転職が一般的なため、ここら辺の事情は似ていると言えますね(参考:Statista)。

これに対し、応募を出す企業側も複数の経路を駆使して応募者の確保にあたっており、やはりプラットフォームや自社の採用サイト、そしてリクルート会社を通じた採用などが一般的です。少し風変りなところでは、縁故採用もドイツでは頻繁に行われており、この場合は従業員との直接のネットワークが物を言います。

もっとも、こうした採用経路はドイツ全体での数値のため、日本人がドイツで就職を目指す際の採用経路は少しまた違った具合になることに注意しなくてはいけません

オンラインプラットフォームや採用ページから募集をかけている案件は「ドイツで労働許可を持った」「ドイツ語が話せる」「ドイツに住んでいてすぐに面接に来れる」応募者を念頭においている可能性が高く、ドイツ国民ではない日本人は様々な点で、エントリーの時点ではじかれてしまうことが多いわけです。典型的な例では、多くのWEBエントリーの際に「ドイツで労働許可を持っていますか」と聞かれますが、ここでNOと回答すると、そこから先の採用プロセスには進めず、面接にも呼ばれないまま就職活動が終わってしまうのです。

というわけで、ドイツでの就職活動に成功する日本人は、一般的なドイツ人の採用経路とは別に、日本人は独自の採用経路を使用することが多いでしょう。「日本人向けのリクルート会社やヘッドハンター」「日本人向けのドイツ就職プラットフォーム」などがこのような例として挙げられます。

  • ドイツ人の採用経路としてはオンラインプラットフォームが最も多い
  • 一方で、こうしたプラットフォームはドイツ人を念頭に応募要件が作られているため、ドイツ国外在住、労働許可非保持者はエントリーの時点で弾かれやすい
  • そのため、日本人が応募する場合別のルートでの応募が推奨される

採用担当者のチェック項目

さて、日本人にとって採用経路以外にもう一つ注意しなくてはいけないのが、ドイツ人が採用プロセスの際の評価軸が、日本のそれとは大きく異なるという点です。ここには、日本とドイツ社会の文化的構造の差異や、そもそも職場で求められる能力が違うことが理由として挙げられます。

採用の際に面接官や人事部が応募者のどのような点を評価するかには、応募先のポジションの性質が関わってきます。中世ドイツでは職人は見習いからはじめ、親方の元で訓練をおこない徐々に一人前になっていく労働社会の構成となっていましたが、現代のビジネスシーンでも同様、職業ごとに「見習い期間」と「一人前期間」とに分けられます。

見習い期間のほうは、俗に「ジュニアマネージャー」などと呼ばれ、日本でいう新卒採用と色合いが近いでしょう。場合によっては、正規採用以前の学生採用や、インターン採用などもこの見習い期間に含まれ、今までの仕事の実績がない以上、学歴や大学の成績、ソフトスキルなどポテンシャル部分が評価されがちと言えるでしょう。

一方で、「シニア職」と呼ばれる中途採用、経験者採用枠であれば、高校や大学の成績云々よりも、現実社会でしっかり実績を残しているかどうかが評価される実力主義の世界です。

ドイツの就職業界では応募者の年齢を選考に影響させることはタブーとされていますが、人事部もやはり年齢によってある程度「ジュニア枠」なのか「シニア枠」なのかの判断をくだすケースも少なくありません。

シニア・ジュニア別の応募要件

自身が応募している職種やポジションを見直してみてください。例えば、ジュニア枠採用にも関わらず、自身の専攻が応募職種と180度異なると面接には呼ばれにくくなりますし、シニア枠採用であれば業界経験が足切りラインになってきます。特に、上記の表で「重要」と書かれた項目に関しては、要件を満たしていないと「足切り」をくらう確率が高いと言えるでしょう。

若手の採用の場合

一般的に、大学を卒業したての学生や大学に属しながら仕事をおこなう学生仕事やインターンシップなど、一般的に20代後半までが「Berufseinsteiger(新卒キャリア)」と見なされやすく、実績重視の中堅職と比較すると将来のポテンシャルや仕事への態度などが評価されやすい傾向にあります。また、ドイツで仕事した経験がなく、日本からドイツへ転職したようなケースでも、ドイツ社会では「新卒キャリア」と見なされがちです。

ドイツ大手リクルート会社StepStone社は管理職や人事担当者へのリスニング調査を通じ、こうした新卒人材にとって重要であると見なされるソフトスキルについて以下のようにまとめています。

多くの面接担当者にとって、「問題解決意識」「主体性」「分析的マインド」を持つかどうかが、最も重要な関心ごとであると言えるでしょう。この3つの仕事態度が好まれる理由としては、ドイツ社会では「自身で考え、行動にうつし、分析する」仕事態度が模範的と見なされ、逆に指示待ち人間は辛辣な評価を得る環境にあるところに起因しているでしょう。

当然、経験の浅いころはその解決方法に綻びやミスが目立つこともありますが、ドイツ人の管理職はこうした前向きなミスに対して比較的寛容な態度を示します。考え、行動し、その過程や問題点を自己分析し軌道修正していく人間であれば、基本的にどのような業界でもある程度の結果をもたらせると考えられており、実績の乏しい学生や新卒採用者にはこうした資質が求められやすいわけです。この点、日本の新卒採用と近い性質を持つかもしれませんね。

  • 新卒者は経験が乏しいため、応募者の行動規範(問題提起、主体性、分析的思考)を重視する
  • 職歴が乏しい以上、専攻、学歴や大学の成績などが重視されやすい
  • ハードスキルよりもソフトスキルに重きを置かれる
  • 経験不足を、行動力と仕事量でカバーできるかが新卒採用者のカギ

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中堅やベテランの採用の場合

さて、これが中堅、ベテラン職の採用となると評価基準もがらっと変わります。端的に言えば、給与が安く長い目で見て育ててあげられるジュニア採用枠と違い、シニア採用枠は給与水準が高く、即戦力としての活躍が求められることとなり、経験がない、勝手がわからない、といった人材を採用するわけにはいきません。

学歴や大学の成績といった学業といった評価基準が、実践の場でどのような活躍をし、どのような結果を残してきたのか、というよりシビアで実践的な着眼点に移るわけです。

一方で、ソフトスキルを軽視するわけではありません。過半数を超える61%の人事担当者が「ハードスキルよりソフトスキルを重視する」と回答するように、多くの経営層にとって人材が優秀なソフトスキルを保有するかどうかは常に関心の的となります。特に重要な点としては、チームワークが挙げられるでしょう。

個人業務が多く、チームや協調性といった点が何となくイメージのつきにくいドイツ社会ですが、ドイツ人にとってのチームワークは日本人とは少しニュアンスが異なります。つまり、調和を重んじて何に対してもYESという性質の協調性ではなく、時には激しい議論を交わし、お互いに納得のいく解決点を模索したり、お互いの専門性を活かして大きな問題を解決するためのチームワークです。サッカーチーム同様、個々がバラバラに動いているように見えて、実はその行動原理に一貫性がある、というのがドイツ人の思い描く美しいチームワークの形です。

ハードスキルはどうでしょうか?こちらも当然、軽視するわけにはいきません。ドイツの会社では社内・社外を問わず激しく意見をぶつけあう、自身のデータを良く見せる、説得力を持たせる、というスキルが求められます。そのため、どんな職種かを問わず、統計やデータを駆使した分析力、ITスキル、といったものが必要とされてくるわけです。

  • ハードスキル、ソフトスキルともに重視される
  • ソフトスキルにおいては、特にチームワークは重要
  • ハードスキルにおいては、データ分析や社内外の論理的な説得ツールがカギとなる
  • 学歴よりも、仕事の実績やパフォーマンスがカギ
  • 特に、業界での仕事経験年数は募集要件に大きな影響を及ぼす

その他採用事情

こうした採用枠別の採用基準とは別に、ドイツ人事が重視しがちな評価軸は他にも数多く存在します。こうした評価軸は、企業規模、業界、ターゲットとするセグメントによって異なってくるため、必ずしも重要でないこともありますが、やはり面接に呼ばれるか、そして採用に至るかどうかの重要なキーポイントになってくると言えるでしょう。

英語はドイツ語よりも重要

ドイツ住民の3割が外国人、または外国出身のバックグラウンドを持つと言われており、ドイツにおける外国語の必要性は年々増加しています。仕事でドイツ語以外を日常的に使う必要があるサラリーマンの割合は全体の44%に及び、その中の実に97.4%が「英語を使用」と回答していることは、日本人にとって驚きではないでしょうか?(参照:Statista)

英語以外にも、フランス語、ロシア語、スペイン語辺りはドイツで高い需要を持っており、興味深いところでは中国語も職場で人気の言語の一つとしてカウントされています。残念ながら日本語の需要はトップ10にはランクインしていません・・ もう一つ気になるテーマが「ドイツで働く際にドイツ語は必要かどうか?」です。このテーマに関しては「ドイツ語不問のドイツ求人一覧」の記事で解説しているため、詳しくはそちらを参照してもらえればと思います。端的にいうと、会社のドイツ色が強い会社やドイツ人との折衝を特に必要とする職場などではドイツ語は重要ですが、ドイツに進出している日系企業や、ドイツ人以外との折衝を主にする職種ではその重要性が下がる傾向にあります。

出典:Career Management調べ(在独日系企業への就職者を対象とした調査)

ドイツの人材会社Personioの調査ではドイツ語不足が原因で不合格となる人材は全体の61%に及びますが、ドイツ語を必要としない、あるいはその価値が低い求人への応募をおこなうことで、この問題はカバーできると言えるでしょう。

  • 英語は多くの企業で必要とされ、外国人がドイツで仕事を見つける上でかなり重要な要素を占める
  • ビジネスレベルの英語(最低でもB2以上レベル)があれば応募要件には届きやすい
  • 加えて、仕事や留学で英語を使用した経験が有れば応募の説得力が増しやすい
  • ドイツ語に関しては、必要とする企業と必要としない企業が分かれており、適切なフィルタリングをおこなえば大きな障壁にはならないケースが多い
  • 日本語はほとんど多くのドイツ企業でアドバンテージとはならない。ドイツに拠点を持つ日系企業では高い価値を見出してもらえる

ジェネラリスト採用vsスペシャリスト採用

日本社会とドイツ社会を見比べたとき、採用文化の点で大きく違う点が一つあります。すなわち、会社業務を隅々まで見渡せるジェネラリストとしての人材が求められるのか、特定の分野に絞ってスキルを発揮できるスペシャリストとしての人材が求められるのか、という違いです。

どちらの人材が優れているという議論は、文化的背景や経済環境によっても異なるため野暮ですが、ドイツでの話に限れば、社会全体が「スペシャリスト」としての人材を好む傾向にあると言えるでしょう。大学で専攻した内容がインターンの内容となり、インターンの内容がそのまま仕事に直結し、そのキャリアをぶら下げて転職の門をたたくわけです。これは、特定の分野に関しては大きな力を発揮しますが、転職市場でその特定の分野の求人が無かったり、職種自体が不要になるなどのリスクも考えられます。

かたや、社内知識のスムーズな共有を求める日本の社会にあっては、ジェネラリスト型の人材の採用・育成に力を注いできました。このシステムでは、満遍なくその業界の知識に長け、部門横断的に情報共有をおこなえる立場にいますが、それぞれの領域の深い部分の理解と言った面ではスペシャリストに劣ります。

日本からドイツに転職する場合、このジェネラリスト型社会からスペシャリスト型社会への移行が大きな壁になることが多く、ドイツ企業で「あなたの専門性は何ですか?」と聞かれ、パッと答えられない事態が生じてしまいます。

最も、ドイツでもジェネラリストとしての求人が無いわけではありません。ドイツに進出する日系企業では、日本同様やはり部門横断的に現地法人を管理できる人材が求められており、そうした職種では日本型のキャリアを持つ人材が最大限自身の力を発揮できると言えるでしょう。

大学の成績や学部

採用の募集要件の中には、大学の専攻を指定してくるケースが少なくありません。具体的には、営業ポジションであればBWLやVWL学部、製品開発部であればその物理や化学に関係する学部、ITポジションであれば情報学部、といった具合です。既述の通り、新卒採用であれば大学の成績がどうであったかも、学部卒か修士卒か、といった項目も重要な評価基準と化すでしょう。

スペシャリスト型の人材を好むドイツ社会では、文系、理系を問わず大学院まで進学するケースが多く(大学進学者の約半分が大学院に進学)、専攻の中でさらに深く、自身の強みとしたい部分を研究します。そのため、学部と修士とで初任給が異なるといったことも珍しくはありません。

こうした職種による「専攻縛り」の要件も、ドイツに拠点を持つ日系企業であれば緩くなる傾向にあります。よほど特殊なスキルが必要な職種でない限り、日本の会社では文学部が人事課になることもできますし、社会学部が営業になることもできます。ドイツ企業の厳しい応募要件が原因で就職活動に苦戦する場合、ドイツの日系企業での採用を視野に入れてみてはどうでしょうか。